疾患について

原発性肺癌

日本人の死因のトップである癌の中で、肺癌が男性死亡の一位になっております。その数は年々増加傾向にあります。
私たちは肺癌の治療に取り組む上で、常に腫瘍の完全切除を目指してまいりました。
肺癌手術療法の基本は「肺葉切除」と「縦隔リンパ節郭清」の両方を行うことを標準手術と考えております。
やむを得ない理由(高齢、低肺機能、心不全や腎不全などの合併症)でリンパ節郭清を省略したり、肺を部分切除するのみで手術を終了することもあり、それら標準手術以外の手術は縮小手術と考えております。
また、肺癌は全身疾患との考えから手術後に抗癌剤による化学療法も積極的に行っております。
その投与の方法はweekly 少量分割投与と呼び、東海大学独自のもので1996年より行っております。
手術後の顕微鏡検査の結果でリンパ節に腫瘍の転移を認めた場合は放射線治療も併用いたします。

また、早い時期の肺癌に対して胸腔鏡下手術も積極的に取り入れております。それは単に肺の腫瘍部分のみ切除する縮小手術ではなく、「肺葉切除」と「縦隔リンパ節郭清」の両方を行う標準手術を胸腔鏡下で行っています。
2005年末まで491件の肺癌に対して胸腔鏡下手術を行って参りました。

肺癌の手術成績を提示いたします。手術方法を開胸手術と胸腔鏡下手術に分け、さらに標準手術を行った症例は術後病期別に、縮小手術の症例とは分けて5年生存率を提示致しました。
死亡は癌死亡のみならず、他病死もすべて含めております。

東海大学医学部外科学系呼吸器外科学 肺癌手術成績

1994年1月から2000年12月まで(第二肺癌症例を除く)全342例 追跡率97.7%
  全体 胸腔鏡下手術 開胸手術
病期 症例 5年以内
死亡
不明 5生率 症例 5年以内
死亡
不明 5生率 症例 5年以内
死亡
不明 5生率
ⅠA 98 10 1 89.69% 75 5   93.3 23 5 1 77.3
ⅠB 39 5 1 86.84% 21 2 1 90 18 3 85.3
ⅡA 9 4   55.56% 6 1   83.3 3 3   0
ⅡB 21 10   52.38% 3 1 66.7 18 9   50
ⅢA 67 38 1 42.42% 23 7   69.6 44 31 1 27.9
ⅢB 35 25 1 26.47% 5 4   20 30 21 1 27.6
10 9 10% 4 4   0 6 5   16.7
縮小手術 63 36 4 38.98% 49 24 3 47.8 14 12 1 7.69
342 137 8 59% 186 48 4 73.6 156 89 4 41.4

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転移性肺腫瘍

悪性腫瘍の単独の肺転移は、手術適応があります。
当院では、1993年から2005年までに、250症例に対し、364回の手術を行いました。
主な原発巣は、大腸癌、頭頸部癌、腎癌です。他に、乳癌、子宮癌、骨肉腫に手術を行いました。以前は、後側方開胸で手術を行っていました。
1999年以降は、CTで指摘した病変のみを胸腔鏡下に切除する症例が増加し、2005年末まで192件の胸腔鏡下手術を行ないました。

縦隔腫瘍

縦隔腫瘍は肺癌手術症例の10%程度の頻度です。当院では1993年から2005年までに322回の手術を行いました。
縦隔腫瘍の内60%は胸腺関連腫瘍です。
縦隔腫瘍は組織により治療法が異なり、術前に確定診断が難しいため、手術による生検が必要な場合があります。
腫瘍生検や良性の縦隔腫瘍切除には、積極的に胸腔鏡下手術を取り入れています。これまで149件の胸腔鏡下手術を行いました。
年々胸腔鏡下手術の比率は増加しております。

胸腺関連腫瘍の内訳

手掌多汗症

手掌多汗症に対する胸部交感神経遮断術 手掌多汗症に対する胸部交感神経遮断術

手掌多汗症は20歳前後の若年に多く、「答案用紙が手の汗でびしょびしょになってしまう」「コンピュ-タ-が汗で作動しなくなる」「汗で看護やヘルパーの仕事ができない」など患者様の悩みは深刻です。
胸腔鏡下手術の導入により胸部交感神経遮断術が安全に行えるようになりました。術後ドレーンの留置の必要はなく、2~3mm径の細径光学視管と操作孔のみで手術を行い、手術の傷はほとんど目立ちません。2-3日間の短期入院手術でおこなっています。手の汗を止めると下肢や背中など他の部位の汗が多くなる「代償性発汗」が生じるため、当院では、利き手側を初回に、対側を2回目に分けて手術しています。中には片方の手術のみで十分な患者様も存在します。
2005年末まで201件の胸腔鏡下手術を行いました。

自然気胸

最近の胸腔鏡器具と技術の進歩により、より低侵襲の手術ができるようになりました。
当科では2005年末までに550件の胸腔鏡下手術を行っています。
2-3mmの細径光学視管の手術痕はほとんど目立ちません。単発性の病巣であればドレーン1本分の傷で手術が可能です。
早期社会復帰に配慮し、入院後すみやかに手術が行えるよう体制を整えており、多くは術後3日の入院と4日の自宅療養で社会復帰しています。

胸膜中皮腫

アスベストとの因果関係が取りざたされている悪性胸膜中皮腫は、近年症例数の増加が認められております。
私たちは悪性胸膜中皮腫に対しても積極的な治療に取り組んでおります。近年ではアリムタを併用した化学療法が主流ですが、この抗がん剤も効きやすい組織型と効きにくい組織型があり全ての方々に当てはまるものではありません。したがって、効きにくい組織型の場合は手術療法も考慮しなければなりません。
標準的な手術は胸膜肺全摘除ですが、術後の局所再発が多いという難点がありました。
そこで私たちは、本疾患に対して温熱化学療法を導入し、手術との併用療法を行っております。本法は、切除ののちに胸腔内を加温しそこに抗癌剤を投与することによる局所制御の試みです。本法により局所再発の頻度は減少しております。ところが、以上の術式は片側の肺を腫瘍と一塊にして切除するため、術後の生活の質の低下は否めません。そこで温熱化学療法単独の治療法も実施しております。
温熱化学療法単独の治療法では、肺を残すことが可能となり、また、本疾患に特徴的な激しい胸痛の軽減も可能で、完全な切除が不可能な方々にも、術後の生活の質が維持できると考えております。

肺気腫

肺気腫に対する肺容量減少手術 [ lung volume reduction surgery ]

従来、びまん性の肺気腫患者の治療は内科的治療や肺移植に頼っていました。
1993年米国のCooperらによる肺気腫に対する外科的治療の報告以降、本邦ではvolume reduction surgeryに対する関心が高まりました。
教室の岩崎らが二窓法(two windows method)を用いた独自のfold plication法を開発しました。肺気腫の外科的治療の目的は呼吸機能を改善させることです。われわれの二窓法によるfold plication法は、胸壁に対する手術侵襲を最低限に抑えることができるため、他施設での手術法より優れていると考えています。
2005年末まで48件の肺容量減少手術を行いましたが、その全例が胸腔鏡下手術です。
呼吸器内科と協力し、術前に厳格な評価を行い、手術適応を決定しています。

漏斗胸

漏斗胸とは肋骨及び肋軟骨の成長が背側に向かってしまった結果、前胸壁が漏斗状に陥凹してしまう先天性の胸郭変形です。
漏斗胸により心肺機能に異常がある場合には手術の絶対適応となりますが、そのほとんどは無症状であり、美容形成学的理由から手術を行っています。
従来の漏斗胸に対する手術は、傷も大きく非常に侵襲の大きな手術でありました。
しかし近年、従来のように肋軟骨の切除をすることなく、また肋骨や胸骨に手術操作を加えることなく、胸骨を金属のバーで支えて持ち上げるだけの手術術式「Nuss法」が開発され、手術そのものの侵襲は格段に低くなりました。

我々はそこにひと工夫加えた「Nuss変法」を行っております。詳しくは専門外来(小児呼吸器外科外来)でご確認ください。

胸部外傷

ユニベントチューブ

併設する高度救命救急センターとの緻密な連携により、24時間最大限の対応を行っております。胸部外傷では、重症な気道内出血に対し可動性ブロッカー付気管内チューブ(Univent)を使用し、重篤な胸部外傷の救命率が向上しました。
胸部外傷は迅速かつ適切な判断を要することが多いため、熟練したスタッフを配置することにより十分な体制を常に整えております。

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